カンボジア鉄道
カンボジアにも鉄道が走っているが、鉄道の評判はひどく悪い。バッタンバンとプノンペンの間は約250kmだが、早朝に出ても日没前には着けないという。また2日に1本しかないし、バスと比べて安いわけでもない。
今回の旅は鉄道に対するこだわりを唯一の既定方針としていたが、さすがにバッタンバン−プノンペン間を列車で過ごす気にはならなかった。プノンペン発の鉄道は2日に1度、偶数日に出るということになっているので
、近郊の町まで乗ってみることにし、30日にプノンペン駅に行った。
列車は早朝に出てしまうので昼以降は人影もまばらである。駅員もいないので、退屈そうな市民を見つけて聞いてみた。「列車に乗りたい。次の列車はいつだ?」。だが英語が全く通じない。「ここ、線路、走る、向こう」、必死のジェスチャーでなんとか理解してもらった。アラビア数字は英語以上に世界共通なので数字で書いてもらった。31、1と書いて首を振る。2と書いて肯く。要するに本当に偶数日しか列車が出ないということだ。31も1も偶数じゃないかという論理を貫き2日続けて列車は出ない。
せっかく1日中プノンペンにいる日が2日あったのに結局列車に乗ることができなかった。プノンペンを出る2日早朝に駅に行き、切符を記念に買って写真を撮るのが精一杯だった。
トゥールスレン
ポル・ポト政権による恐怖政治の実態を現代に語り継ぐものがカンボジアにはいくつもあるが、その中でも最も知られているものの一つがトゥールスレンだ。クメールルージュの時代に刑務所として使われていた建物であり、今は博物館として当時の様子をとどめている。
トゥールスレンはプノンペンの南の外れにあり、町の中心から歩くには少し遠い。だからこの国の常套であるバイタクに乗ったが、トゥールスレン付近の道は首都とは思えない悪路で、バイクで歩くといった感じだった。中心部こそ道は整備され交通量も豊富だが、カンボジアの町としては
群を抜いて大きいプノンペンを整備しきれるほどはこの国の財源に余裕はない。
トゥールスレンは元々学校として使われていたがために、建物の作りが画一的でかつ庭が広い。それが凄惨を極めることになる刑務所にとってはこれ以上ない条件だった。内には仕切るためのレンガを積み上げてそこを一様な牢獄とし、外には拷問に用いる呪わしい器具をいくつも設置した。あまりにも親切なことに絵で当時の様子を描いているので目の前にある一つ一つの光景の意味がわかりすぎてしまう。写真として鮮明に残
すことをこれほど恐れたことはかつてなかった。
犠牲者の頭蓋骨がまたも山積みにされていた。犠牲者の生前の写真が部屋中に並べられていた。あまりに居た堪れ
ず、逃げるようにその場から離れた。
カジノで勝負
プノンペンには船上カジノがあると聞いていた。僕はカジノに行ったことがなかったので是非一度見てみたいと思い、
メコン川の支流で、プノンペンを流れるトンレサップ川に向かった。
川沿いに行ってみるとすぐにそれとわかる船
を見つけた。川には不相応なほどに大きい船がある。僕自身もカジノには不相応な小汚い格好をしていたが、意に介することなく船を目指した。
ところが船の入り口が閉ざされている。カジノのことを全然知らなかったので「昼間は開いてないものなのか?」「土曜日は営業していないものなのか?」などといろいろ考えたが、
付近にいた男に「向こうのホテルの地下に移転したんだ」と聞かされた。
そのホテルに向かった。
入口で空港でのそれのように身体や荷物を検査され、カメラも「NO」。明らかに厳重な警備が敷かれており、単なるホテルでないことはすぐわか
った。出入口付近は少々品のよいゲーセンといったところだが、もう少し先に進むとそこはまさにカジノという感じで、正装をしたディーラーがいかにも手際よくトランプをさばいていた。それとは対照的に、客の大半は中年肥りもピークに達した品の
ない東洋人ばかりであった。
せっかくだから「ディーラーのいるところで勝負を」と思っていたが、一回の掛け金の最低額が10ドルでは全く
手が届かない。ゲーセンと変わらぬスロットで1枚20セントのメダルをめぐる熾烈な戦いをするしかなかった。一発当ててスリにあった分を回復しよういう思惑をもって臨んだが
、25ドル失った時点で現実を取り戻した。カジノは金持ちから魔法のように金を巻き上げるシステムらしいが、同時に貧乏人から無慈悲に巻き上げるシステムでもあるらしい。
市場
プノンペンには大きな市場がいくつかあるが、その中でもとりわけ大きいのがいわゆるセントラルマーケットである。ドーム型をした巨大な建物の中に、いかにも東南アジア的な混沌としたマーケットがある。建物の中には時計、貴金属、電化製品などの高価な品が並び、外にいくと食料品や衣類などが置かれている。
布製品は長旅においては格好の土産になる。バックパックのどこに潜んでいても壊れることがないし軽い。クメールシルクと呼ばれる絹製品が有名なのでそれを買った。だが、クメールシルクがタイシルクとどのような点において異なるのかはちっともわからなかった。価格面から見ても、クメールで売られている絹はことごとくクメールシルクと呼ばれてしまうようだ。
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