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04.カンチャナブリ編(10月17日〜19日)


戦場・カンチャナブリ

 バンコクからバスで2時間ほど西に行くとカンチャナブリという町に着く。映画「戦場に架ける橋」で一躍有名になったクゥエー川鉄橋が町の北東部に架かっている。

 第2次大戦中に日本軍が建設した泰緬鉄道はこの町を通ってミャンマー方面へ続いていた。アジアの人々や戦争捕虜がこの地に強制連行され、その建設のために過酷な労働を強いられ何万という死者を出した。その過ちをこの町の2つの博物館が今も語り継いでいる。その語りは、日本への恨みを表明するわけではないのだが、恨むべき過去があったことを忘れるつもりはないという意志を痛すぎるほどに表明している。日本人でなければきっとこうはなるまいという心境になる。

 断崖絶壁を強引に切り開いて造られた泰緬鉄道は今も部分的に運行されているが、そのわずかな部分を除けば線路跡がなんとか見られるというほどに破壊されている。ヘルファイア・パスという聞いただけでも恐ろしい名の切り通しを訪ねたが、ダイナマイトによる爆破の連続で突貫的に造られた切り通しとわずかに残存する線路が生々しい。

 その近くにはオーストラリアの協力で建てられた博物館がある。オーストラリアの人も大勢ここで命を落としたそうである。にもかかわらず、館長とおぼしきオーストラリア人(訛りだけもでそうとわかる)は日本人に対しても非常にやさしい目をしていた。

 ちなみに入場無料。カンパ制。タイでは高級ホテルに次ぐくらいトイレが清潔だった。


カンチャナブリの娯楽1・温泉

 日本軍が残した傷跡がそこかしこに見られ、重たい記憶ばかりが残りそうなカンチャナブリだったが、そんな心を癒やしてくれる場所もある。

 ヒンダー温泉。日本軍が掘り当てたという川沿いの天然温泉だ。同じバスに乗ってきた西洋人6名はちゃんと知ってたようでしっかり服の下に水着を着用していた。そういう周到さが僕にはない。もう1人いた日本人にもない。

 温泉に着いてみると地元の人は果敢にも着衣のまま入浴している。だからうら若き西洋人がビーチと勘違いしてるとしか思えない姿で入っていくとかなり浮く。もっとも当人たちはそんなことお構いなしだが。

 一方、困った日本人たちは貸し水着屋に足を運ぶ。レンタルの海パンというのは少々気持ちが悪いが背に腹は変えられない。もう1人の日本人は「水着を借りるのは嫌だから」といってサロン風の布を買い、それ1枚で全身を覆っていた。サロンは本来スカート風に用いられるもの。こちらも実に果敢である。

 温泉のすぐ横には川が流れている。水温は日本の初夏の屋外プールといった程度で少しヒヤッとする。温泉でのぼせかけた頃に川に移動し、体が冷たくなってきたらまた温泉に戻るというのがここのリズムらしい。川は見た目以上に急流で温泉気分でいると下流に流されそうになったが、なにはともあれ約2週間ぶりの湯船で実に心地よかった。

 入浴後、西洋人たちはどうするのだろうかと思っていたら濡れた水着の上に当然のように服を身につけていた。なんだか、僕以外はみんな果敢である。


カンチャナブリの娯楽2・泰緬鉄道

 現在運行されている旧泰緬鉄道の最北端はナム・トクという駅だが、その少し南に難所として有名な桟道橋がある。そこを汽車で通過するのがこの鉄道の醍醐味とされている。

 ナム・トクから鉄道に乗ると桟道をゆっくり見る時間がないのでバスで桟道の直前まで向かう。ちゃんとそこには駅がありそこから汽車に乗れるという仕組みだ。観光客に踏みならされるとこういういいこともある。

 汽車に乗り込むと、まるで橋を怖がっているかのようにそろりそろりと走る。歩くよりも遅い。それを脅かすように橋が不穏な音をたてる。だがその恐れが車内には一向に伝わってこない。

 車内は観光客でごった返し、誰も彼もが景色を見ようと川側の窓にへばりつく。幸い崖側の席は人気がないので僕らは車内販売のビールを買って崖を触りながら乾杯。

 その後は建物もろくになく、荒地の中にだんだんと耕地が増えていく車窓。2時間弱でクゥエー川の鉄橋に到着。椅子が木だったので尻が痛くなった。


カンチャナブリの雑記

・ネットカフェからの帰り道、ちらほらバーがあったのでどこかでビールでも飲もうかとのんびり歩いていたら日本語を話す呼び込みがいたのでそこに入ってみようかと思ったら「おじさん、こっちこっち」。他の呼称を知らないだけかも知れないが妙にムカッとしたのでその日は飲むのをやめた。あえて大人気なく。

・温泉にしても川にしても水は決してキレイには見えなかった。が、 例のサロン入浴を敢行したアキコさんは「ここの川の水は汚く見えるけどキレイなんだって」と言う。汚く見えるけどキレイなんてことがあり得るのかな。水がキレイ、って見た目のことじゃないんかね。

・そのアキコさんは困ったことに辛いもの狂で、ビールを飲んでいると「川魚の鍋が辛くて美味いよ!」という店員の言葉に乗せられてしまった。結果的に、僕1人では絶対に手を出さないような、神々しいほどの真紅をたたえた鍋をつつくことに。一口トライ。舌が箸に触れただけで唐辛子を鼻にいれたかのような激痛が走る。鍋の汁を徹底的に振り落として、魚の5倍くらいの量の白米につつんでようやく口に入れることが出来た。あれを平然と食べる姿には感嘆するほかなかった。
 

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