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14.サイゴン編(11月2日〜6日)


カンボジア出国

 プノンペンを朝7時に出て、ベトナムのホーチミン市をめざし国境へ向かった。プノンペンから国境まではバスで約5時間。牛や馬があくびをする相変わらずの長閑な一本道をひたすら行く。途中、メコン川をフェリーで渡った頃から風景が少し変わった。カンボジアの平地は樹木の数が少なく田畑の淡い黄緑が視界の大半を埋めたが、国境に近づくにつれて樹木が増え次第に緑が濃くなっていく。

 バスは国境を越えることができないため、国境の町バベットでバスから降ろされた。そこで同じバスに乗っていた日本人2人と一緒に国境の食堂で昼飯を食べた。1人は僕と同じ年で、今春就職したが早くも辞めて旅行中だというケン。もう1人はすでに日本を出て半年という、そのヒゲ面が旅の達人を思わせる39歳の男性。ずっと達人と呼び続けたため彼に本名を聞く機会と必要はとうとう最後までなかった。

 13時に国境に向かった。バスの運転手が手押し車にバックパックを載せて運んでくれるというので素直にその世話になったが、国境に着くや否やその手間賃として1ドルを要求された。きっと僕1人だったら目くじらを立てるような額ではないと考えて渡してしまっただろうが、達人は迷うことなく自分の荷物を強奪してベトナム側へと向かった。ケンと僕もそれにならって力づくで自分の荷物を取り戻した。

 旅に慣れるとはこういうことなのか。感心。


ベトナムで見たもの

 カンボジアからベトナムに入国すると、ベトナムがかなりの先進国に思える。まず国境を境に「みち」が「道路」に変わる。踏みならされただけではない、財が投じられた跡が感じられる。尻にタコができそうな悪路が舗装路となり、バス本来の能力を発揮しだす。加えて、ベトナムのバスはクーラーが効いている。座席のクッションが機能している。がっかりするほど楽にホーチミン市に到着した。

 宿に荷物を置きネットカフェに涼を求めると、ADSLが導入されており回線速度が速く、かつプノンペンより時間あたりの使用料が安い。単位情報量あたりのコスト差は歴然としている。これはあるいはそれぞれの民度に直結しているかもしれない。

 とにかく、ベトナムの先進性にはのっけから驚かされた。 


サイゴンの日常

 ケンと一緒に街を徘徊したサイゴンの夜はいくつかの点でセンセーショナルだった。

 まず、夕食にカンガルーの肉を食べた。ベトナムとカンガルーの間に何一つ共通項が思い当たらなかったが、メニューにはあまりにも明瞭にkangarooと書かれており、全くの興味本位で注文した。かなり濃厚な味付がなされていたが、それでもなお異臭がする。無意識に顔をしかめる互いの顔をみ、笑うしかない時特有の笑いを禁じえなかった。

 ちなみに隣では42歳のオッサンの誕生日を祝うパーティが盛大に開かれていた。雰囲気に乗じて乾杯に参加したが、余りに自らの誕生日に喜びを感じていたようなので厄年という風習について説明することはやめておいた。

 食後、達人と合流してこじんまりとしたカフェに足を運んだ。すると、明らかに何名かの店員が達人を認知しており、初対面の客に見せるには相応しくないほどに顔を崩してきた。「本当に達人ですよね」などと意味不明な賛辞をおくりつつ、カフェ・ダという練乳入りのコーヒーを初めて口にした。喉が焼けるほど甘いコーヒー牛乳のようなものだが、蒸暑い中では不思議と今後のベトナムでの食生活に欠かせぬ一品となった。

 今日は長時間移動もあったし、ということで宿に帰る前に50000ドン(約350円)の足マッサージを受けた。やたらと左足ばかりが痛むマッサージでやや満足度に難ありだったが、薬草入りの足湯には心から癒された。会計時に50000ドンのチップが義務付けられている、という詐欺あるいはボッタクリも同然のルールがまかり通っていたが、気分がよかったのであまり苛立ちを覚えぬままに宿に戻った。


サイゴンの雑記

・地図やガイドブックでホーチミン市と呼ばれるこの街をホーチミンと呼ぶ地元人にはとうとう一人も出会わなかった。誰もが旧称であるはずのサイゴンを今も用いている。そんな環境に身をおいていると、そこがホーチミン市であるとは思えなくなる。気がついたら、サイゴンとしか呼べなくなっている。

・サイゴン行きのバスで出会ったケンとはサイゴンでも近くで泊まったため、幾度かともに飯を食べた。サイゴン一日目はカンガルー肉を頬張る。肉らしくない臭みがあり、あまり美味しくなかった。二日目は酒を飲みながらビリヤード。ベトナム人店員のリンを加え、ケン、リン、ジュンと韻を踏んだかのような3名でナインボールに興じた。ちなみに、日本勢はリンに全く歯が立たず、 偶々9つめの球が残ったためケンが勝利したものの、国辱ものの完敗を喫した。
 

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